ミツルギ

6/20
前へ
/20ページ
次へ
 連なる提灯に導かれるように、盆踊り会場へとたどり着くと、普段からは想像がつかないほどの賑わいを見せていた。  大きな櫓の上では、法被(はっぴ)姿の男の人が汗だくになって太鼓を叩いている。心臓に響く音に合わせて、甲高い笛の音も聞こえてきて、自然と気持ちが高揚する。櫓から放射状に提灯が連なり、揺れる灯の下で村人たちがぐるぐると踊っている姿は幻想的だった。揺れる浴衣の袖がふわりふわりと、灯に飛び込む蛾のようだなと、静かに眺めていた。  息を整えて、会場をぐるりとめぐる屋台を一つずつ覗いていく。潤ちゃんがいるとすれば、盆踊りの輪の中ではなく、屋台に向かう人だかりの中だと思ったからだ。  焼きそば、たこ焼き、かき氷。くじ引きに金魚すくいに型抜き。会場を一周しても、何処にも潤ちゃんを見つけられないまま、やがて提灯の火は落とされて人が散ってゆく。 「潤ちゃん」  耳に響く声のあまりの心細さに、身震いをして両手を握りしめた。  その日の夜、遅くに電話が鳴り響いた。  最初は朗らかだった母親の声が、次第に強張っていくのが聞いていてわかる。(ひそ)めた母親の声の中に「潤ちゃん」という言葉を聞きつけて、がばっと布団を跳ねのけて(ふすま)を開けた。     
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加