1人が本棚に入れています
本棚に追加
どくどくとうるさい心臓の音は、急に起き上がった所為だけではない。不安が押し寄せる。
「潤ちゃん、居ないの? 帰ってないの?」
お母さんたちが探しに行くから、家で待っていなさいと言われたけれど、頑として聞き入れなかった。真っ先に外に出飛び出すと、たくさんの灯が闇の中に浮かび上がっている。その上下にゆっくりと揺れる灯が、鬼火のように不気味に見えた。
その鬼火は、潤ちゃんのお母さんが村中に電話をかけて、捜索に駆けつけた大人たちだった。私も懐中電灯を片手に、村中を駆けずり回った。腕を振り上げるたびに、残光が細く伸びる。
「潤ちゃんっ」
二人で遊んだ場所、一緒に行った場所、大人に内緒の秘密の隠れ家。思い当たるところ全部、叫びながら、潤ちゃんの名前を呼びながら。それでも潤ちゃんを見つけることが出来なかった。 結局、潤ちゃんは見つからなかった。
しばらく探して、駐車場にぽつりと残された櫓の下に皆が集まり始める。
「どこを探しても見当たらない」
「呼んでも出てこない」
「いったいどこに行ったのか」
口々に言う村人たちに、潤ちゃんの両親はすみません、すみませんと頭を下げ続けた。
最初のコメントを投稿しよう!