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その内、この村役場に移動してきたばかりの男性がぽつりとつぶやくと、その言葉は一瞬静まり返ったこの場に、やけに大きく響いて広がっていった。
「村にはもう、居ないのかもしれない」
なんでそんなことを言うのか、悔しくて唇を噛んだ。
「あの子は村を、出たがってました。家出したんじゃないでしょうか・・・」
そうであれば楽なのに、そう言いたげだった。
集まった大人たちの中に、その言葉を受け入れる空気が流れたのを感じた。
「違う!!」
その空気を切り裂くように叫ぶ。
「そんなことしない! 潤ちゃんはそんなことしない! 絶対しない!! この村に来たばっかりのくせに、潤ちゃんのこと何も知らないくせに! 適当なこと言わないで!!」
噛みつきそうな勢いの私の肩を、やめなさいと父親が抑え込んでいた。それでもまだ言いつのろうとする私の口を、父の大きな手が塞ぐ。
「もう帰りなさい。あとはお父さんたちが探すから。おい、連れて帰ってくれ」
父の言うことを素直に聞く母は、私の腕を取って、引きずるように歩き出した。
「潤ちゃんは家出なんかしない! 潤ちゃんは約束破ったりなんかしない! 村に居る、まだ村に居るよ! ねぇ、見つけなきゃ、私が探さなきゃ・・・潤ちゃん、見つけなきゃ」
泣きながら訴える私の肩を、母親が優しく抱き寄せた。
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