ミツルギ

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ミツルギ

 小学校最後の夏休み。  私はあの夏を、生涯、忘れることはないだろう。  私の生まれ育った村は、人口数百人、高齢化の進む廃村ぎりぎりの村だった。山間のこの小さな村にあるのは、同じく廃校ぎりぎりの小学校が一つ。中学校は、隣――――というには、遠すぎる―――町まで、一台のマイクロバスに全員で揺られて通学する。そして同じように揺られて帰ってくるのだ。あくまでも、最初の内は。  何もない村から、小さいとはいえ町へと出ると、子供たちはその華やかさに心を奪われ、遊びたい盛りの少年少女たちは、学校帰りの寄り道のために自転車で通うようになる。  そしてそのまま、高校進学と同時に、この村を離れていくのだ。  当時の私も、早く村を出ていきたいと思っていた。  山に囲まれ、田畑と森が大きく広がる村には何もなく、ただその分、地域の繋がりがとても強い。家の戸に鍵をかける習慣も無く、勝手に玄関に上がり込んでは「奥さーん、居ないのー?」と家人を呼んでは長話に興じる。遠く離れたお隣さんへの夕飯のお裾分けもしょっちゅうだし、噂が広がるのも異様に早かった。     
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