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戌亥神社
「ちょっと、
おさんぽにいってくるね」
「暗くなる前に戻るんだよ~」
「は~い」
真藤紫織は母の言葉に元気よく返事をして、
戌亥寺の庫裡から飛び出した。
ここは母の実家で、
一週間前に引っ越してきた。
戌亥寺は福島県郡山市の猪と呼ばれる小山にある修験寺で、
本堂の更に奥に社がある。
これは明治の廃仏毀釈の名残で、
寺だったのを神社に変え、
再び寺を建てている。
その際に再建場所を麓寄りに変更して、
神社をそのまま残した。
修験道は神仏混淆のため、
このような事になったらしい。
小学二年生の紫織にはこの寺と神社の複雑な歴史は解らないが、
ただ今はその神社に行きたかった。
そこには誰もいないからだ。
本堂の脇をすり抜け、
神社に続く階段を駆け上がっていると、
後ろから何かが追いかけてくる。
振り向くと大きな白犬がいた。
祖父が飼っている秋田犬の政宗だ。
紫織は階段を登り切った所で立ち止まると、
政宗も動きを止めた。
この神社には狛犬の代わりに、
白犬と黒犬の石像が置いてある。
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