若しも今、この肩の荷物を降ろしても良いのなら。

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「せやなぁ、愛花ちゃんは二十代半ばにして結婚。子宝にも恵まれた専業主婦。世の中からしたら勝ち組や。」 私は、掌をギュッと握った。 「愛花ちゃん、学生さんの時にタレントオーディション受けたやろ?ええところまでいったんやけどなぁ。結果は落選。合格した子は、今やテレビで見ない日はない人気者や。」 「………。」 握った掌に、汗が滲む。 「それに、愛花ちゃんは現実を見て結婚の道を選んだけど。本当はおるんやろ?一番に好きな人が。それも四年越しの永い永い片想い。」 顎から汗が垂れて、手の甲に落ちた。 「しゃあないなぁ。せやかて、彼には長く付き合うてる彼女さんがおるんやもんなぁ。愛花ちゃんは、一目で恋に落ちて、そんでその瞬間、この恋を諦めたんや。」 「………。」 「間違うとる?」ギンは、私の顔を覗き込んで問いてきた。 「嗚呼、あと愛花ちゃん。本当は絵で食べて行きたかったんやろ?それを叶えてる奴はぎょーさんおる。まあ、狭き門やけどな。本当は今も描きたいんやろ?」 握りしめている手に爪が食い込んで血が流れた。今の私の表情は、おそらく「無」だろう。 何も言い返せない。だってギンの言うことは全て事実であり、図星なのだから。 「…生き霊になったら、どうなるの?」 「解放されるんや。愛花ちゃんのその小さな身体には、もう後悔も嫉妬も収まりきらん。生き霊になったらどないする?愛する人の彼女を呪う?それとも夢で成功した奴を片っ端から恐怖に陥れる?」 「どないしたい?」ギンはニヤニヤと口角をあげて、また私の顔を覗き込んできた。 「………。」 眉が下がる。とても現実のことと受け止められない。困惑し、顔を俯かせる黙りの私に、ギンはサラリと流れるように言葉を発した。
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