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目覚めた後で
じりじりと焼け付く日差しの中で野球部の部員がグラウンドを走っている。大田健二は廊下の窓越しに彼らを眺め、目を細めた。
坊主頭の集団で唯一長めの髪型の男がやけに目を引いた。集団の中央に位置し自分のペースを崩さない。その男を健二はよく知っていた。中学からの高校二年の今まで誰よりも近い距離にいたからか、その隣に自分がいないことが健二にはとても不思議に思えた。
健二は集団から視線を外し、廊下を歩き始めた。既に夏休みの補習の時間は過ぎ、ほとんどの教室はもぬけの殻だった。窓から指す夕焼けが教室の机や廊下に深い影を落す。足音は人気のなくなった廊下でやけに響いていた。
目的地である職員室に辿り着いて、健二は扉を引いた。
「失礼します」
奥の角に座っている男が慌しく立ち上がった。眼光がいつもより鋭い気がした。健二はゆっくり男の傍に歩み寄った。男の腕には先日健二が提出した退部届が握られていた。
「大田」
「…井川先生、何の用ですか」
健二を呼びつけた教師井川は数学担当かつ、野球部の顧問だ。
「何の用だと…わかるだろう。部活のことだ。甲子園が終わって主将になったばかりだろう。本当に考え直すつもりはないのか」
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