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肩を上下しながら荒い呼吸を繰り返しながら、健二が教室を出ようとしたところだった。前方に影ができていた。
一際大きく鼓動が脈打った。恐る恐る影を見上げ、健二はくしゃりと顔を歪めた。
「はぁ、っ…は…っ、さぼってるから、余計にのろまになったんじゃないの、お前」
教室から出ようとする健二を阻むように男が立っていた。遼だ。顔を会わせることなく別れる予定だった男の登場に健二は動揺を隠しきれないまま、適当な相槌を打った。
「そうか、もな。最近ランニングやってねぇから」
「お前が来ないと自分のペースで走れて楽だけどな」
「そりゃあ良かったよ」
逃げ出しそうな性根を叱咤しながら、健二は勇気を振り絞って言葉を続けた。声がみっともなく揺らいだ。
「お前、昔から俺と走るのなんて面倒っていってたもんなぁ。…もう、一緒に走ることなんてないからさ、安心しろよ」
「それは良かった。清々する」
健二の言葉を遼は笑顔で受け流した。大方、健二の予想通りだ。筋は通した。
「ん。じゃあ…」
きつく握りしめられた拳が健二の視界に入った。力が入りすぎて小刻みに震えるのを健二は無視できなかった。遼の手首を掴んで、引き寄せて無理矢理、拳を開かせる。
「お前なぁ、あんまり握りしめんなって言ってるだろう。痺れが残るの嫌いな癖に何やってんだよ」
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