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健二がそう言うと遼が呆気にとられたように間抜けな顔をしていた。そこでようやく出過ぎたまねをしたことに健二は気付いた。健二はもう遼の捕手ではない。
「あ、悪い。えーと、俺は帰るから……お前は部活に戻れよ。じゃあな。」
いうべきことは言ったとばかりに遼の横を通り過ぎようとするも、健二の手首を掴み、引きとめる腕があった。腕の力はそこまで強くない。健二は振り払うことなく、遼を振り返った。
「なんだよ」
「なんで、野球やめるんだよ?」
「あー……親が予備校に通えって」
お前を追いかけるのに疲れた、という本音は勿論、自分で決めたことだと胸を張ることは健二にはできなかった。親に強いられたのだと被害者を装う。
は、という鋭い声がその場の空気を一瞬で変えた。場が凍った。健二はその変化に気付いたと同時に遼によって肩を強く押され、床に尻を打ちつけた。痛みに呻きながら、遼に抗議する。
「なにっ、すんだ! 急に」
「なんだ、それ」
遼は眉間に深い皺を寄せ、露骨に侮蔑の色を濃くした眼差しで健二を強く責めていた。隠しもせず、怒りに全身を震わせている。
「そんなもんのために…野球捨てんのかよ」
感情を押し殺した静かな詰責た。しかし、激しい憤りが声に滲んでいて、健二は予想以上の怒りに面を食らい、言葉をなくしていた。
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