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「あれだけ、俺にべたべたくっついてきて、俺と一緒に野球したいって頼んできたくせに、そんなもんか」
遼は静かに室内に入り、座り込んだ健二の目の前に腰を降ろした。すぐに首の襟を掴まれ、鋭い眼光に健二はたじろいだ。
「親の一言でなしにできるようなもんだったのかよ! おい! 答えろよ!」
びりびりとその場が震えるほどの激しい怒声だった。
間近に迫る他人の怒りに怖気づいて、嵐が過ぎ去るのを待つように健二は押し黙った。
ホント、お前ってくだらねぇな、と嘲笑を過剰に含んだ遼の口撃は続く。
「俺のことを好きだなんだとぬかしたって結局お前は俺じゃない誰かの顔色を見てんだよな。みんなに好かれたいんだろ。なぁ、何とかいえよ、平和主義の優等生」
敵意を向けられるのは恐ろしいことだ。それはきっと健二だけでなく誰だってそうに違いない。自分が我慢すれば丸く収まるんだったら、いくらでも我慢する。
「お前はさ、今だって黙って俺の怒りがおさまるのをじっと待ってるんだろ。何故俺が怒ってるかも知ろうともしないんだ」
遼の強い口調が崩れ、最後の方は声が掠れていた。あのプライドの高い男が泣き笑いのような表情を浮かべていた。健二はただただ驚愕し、遼を見つめた。
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