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「随分お優しいことで。さすが元主将。…いいからさっさとしろ」
健二は渋々身繕いを始めるが、その瞬間、教室の外から足音が聞こえた。こつこつ、と規則正しい靴音は聞き覚えのあるものだ。二人は一気に顔を青くする。
「おい、井川だ」
「わかってる」
徐々に近づいてくる靴音に慌てて動き出すが、鋭い痛みが下腹部を襲って、どうしても動作が遅くなる。そんな健二を見て状況を理解したであろう遼が急に立ち上がった。
「俺は先に出る。お前はしばらく動くな」
教室の前で止まった足音に戦きながら、健二は必死に頷いた。健二を見ることなく、遼は教室の扉を開ける。
「うぉ! た、立花!? お前なにやってんだ! おい!顔どうした!?」
「転んだんです」
遼は淡々と告げると、監督は困ったといいたげな様子だった。
「おまえなぁ、来月から選抜だろう、そんな気持ちで大丈夫なのか。今日だって部活途中で抜けたりして」
「今から戻るところです。そんな目くじら立てないでくださいよ」
「お前は協調性って言葉を知っているか」
「……知ってたら、全国大会に出れますか?」
言外にそんなものいらないという遼の言葉が教師に喧嘩を売っているようにしか思えなくて健二は頭を抱えた。
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