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「ならん。そういう問題じゃない。いいか、野球はチームで行うんだ」
協調性をかるんじる発言がひっかかったようだ。
元来、個々の才能によるスタンドプレーを好まない監督だ。個々がそれぞれのポジションの役割をこなすのではなく、チーム全体で考える、といった考えが練習でも伺える。それがわからない遼でもないのにわざわざこうやって挑発するのだから見ているほうはひやひやする。
話題は野球とはなんたるかの野球論に移り変わり、チームワークの大事さを監督はとき始めた。
「はぁ。そろそろ、俺、戻ってもいいですか」
執拗に説かれたのにもかかわらず、遼の返事は軽かった。大きなため息はきっと監督のものだ。
「いい。行け。俺は教室を回る」
「……」
「どうした?」
「この教室、もう誰もいませんよ」
「?そうか、じゃあ、次を回ることにするか」
遼は何食わぬ顔で監督を引き連れて教室を出て行く。ぴしゃりと扉が閉じたことがわかって健二の張り詰めた緊張が解けた。
健二が音を立てないようにスラックスをはいていると廊下から監督の話し声が聞こえて、健二は動きを止めた。
「そうそう、大田に伝言伝えたぞ」
「?何?」
「覚えていないのか、薄情なやつだな。伝えろって言っただろう。で、大田から伝言だ」
「は?あいつ、何て?」
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