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健二はあらかた身支度を終えて、床に放っていた鞄を拾う。重い身体に鞭を打って教室を出た。グラウンドを避けて裏口から学校を出る。
帰路に着いた健二の頭にあるのはただ早く帰りたいという思いだけだった。それ以外のことを考えると動けなくなりそうで、淡々と足だけを動かす。
ようやくうちにたどり着いて、玄関の扉を開ける。
「ただいま」
健二はさっさと自分の部屋への階段を駆け上がる。すると一階の居間に居た母親がパタパタと玄関に出てきた。
「あらーおかえりなさい!あ、ちょっと健二、ご飯は?」
「あとで食べる」
母親を見ずに答え、健二はさっさと自分の部屋に逃げ込んだ。鞄を降ろし、適当な着替えを持って風呂場に向かった。
行為の残骸を洗い流す。暖かいシャワーを浴びていると、ショックを受け固まってしまった思考がほどけていくようだ。
とるにたらない存在だったなら、そのままほおっておいてほしかった。どうせ届かない存在ならそのままでいてほしかった。
健二の口からは嗚咽が漏れた。瞳からは涙が堰を切って溢れた。
あのボールを受けるのも、あの男を心配することもなくなる。それを望んでいたはずなのに身が切られるように全身が痛んだ。
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