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立花遼はバッテリーを組んでいた相手だ。ピッチャーとしての才能に溢れた、ボールを投げるために生まれたような男だった。中学校の頃からその才能を持てはやされ、天才だと言われていた。健二も野球が上手い。投げるのが、取るのが、打つのが上手いと言われてきた。それがどれほどちっぽけなものかを健二に思い知らせたのが遼だ。そして、あの男は捕手の喜びを健二に教えてくれた。
ボールがグローブの中で暴れまわる生々しい感触が蘇る。、そして受け切ったとき僅かな優越感を思い出して胸がぎりぎりと痛んだ。
「……あいつは俺に扱えるような玉じゃないですよ」
あの男の女房役は健二には荷が重過ぎる。気付くのが遅すぎた。中学から今まで一緒に居てようやく気付けた。
「俺はそう思わないがな。…あいつがあのままなら、仮にプロになれても厳しい。あの気性とメンタルの弱さは致命的だと言われている」
有力投手の一人として高校野球専門雑誌に遼のことが書かれていたことがあった。そこで彼は玉は早いが、打たれ弱いと酷評されていた。やけに弱さを誇張した胸糞悪い内容で腹が立った。
しかし、監督がそれをここで持ち出すのは卑怯だ。
「それが俺が部活をやめることと一体何の関係があるんですか」
健二がそういうと、監督はしばらく押し黙り、情に訴えることを諦めたようだ、肩を落とし、わかりやすく消沈した。
「そうだな」
次に続いた言葉は恥じ入るようなニュアンスが含まれ、幾分か冷静だった。
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