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健二は鼻をすすりながらさっさと教室に向かおうと、意識を別に向けたところだった。視線を彼らに戻し、健二は身体を強張らせた。心臓が高く跳ねた。
「っ」
遼が健二の方を見ていた。まっすぐこちらを向いている。
徐々に大きくなる心音を抑えるように健二は胸のシャツを掴んだ。
気付くはずがない。遼から校舎まで距離は遠い。一目で自分だとばれることはまずない。
そう自分に言い聞かせている最中、遼が動いた。捕手に手を上げ会話を中断させた。そして、校舎に向かって歩き始めた。
健二は煩い位の鼓動を聞きながら頭に浮かぶ予想を必死に
否定した。
万が一遼が健二の存在に気付いたと仮定したとしても追いかけてくる理由はないはずだ。職員室で聞いた伝言は健二に対する未練や執着は欠片もなかった。あの男が追いかけてくるなんて、杞憂だ。
否定を続ける健二をよそに校舎に近づくにつれ遼の歩くスピードは上がっていく。思わず、健二は後ずさり、自分の教室に向かって走り始めた。
荷物をとったらすぐに帰ろう。遼がいくら足が速いといってもここは四階だ。すぐ教室にたどり着くことはない。頭の中で計算しながら、必死に廊下を走り、健二はようやく辿り着いた教室の扉を乱暴に開けた。転がるように室内に入り、自席にある鞄を無造作に掴む。
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