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大家との関係も良好で、たまたま玄関で出会った時なんかにはよく食べ物や日用品を頂けた。これは引っ越し後に知ったことだったが、彼女の隣室は大家の男性だった。気を遣うことが多そうだと落ち込んだが、大家は普段他のところに住んでいて、ほとんどその部屋にいることは無いという。実際、大家の家に明かりがついていることはほとんど無かった。気さくな大家からの頂き物はいつもちょうど切らしているな、と思ったタイミングで有難いばかりだった。
引っ越して半年程立った頃、それはなんでもないある日のことだった。
彼女はいつもの調子で夜の肌のお手入れにと、お風呂上りに洗面台へと向かっていた。その時の彼女は21時から見たいドラマがあり、ちょっと慌てていた。
「きゃっ!」
お風呂上りで濡れていた床に、つい足を滑らせてしまった彼女はそのまま前のめりに床へと倒れこんだ。
ガシャン!
更に運が悪いことに、彼女は手に化粧水のボトルを持っていたのだ。お気に入りのガラス製容器は勢いよく鏡にぶつかり、派手に音を立てた。鏡には蜘蛛の巣上に亀裂が入り、あたりにはガラスと鏡の破片が散らばる。と、同時に、
「……ぐがぁっ!」
男の悲鳴が聞こえた。位置関係から、悲鳴は隣室、大家の部屋だと思われた。いつも通り部屋は真っ暗だったのにいつ帰ってきたのだろう、そして何より今の悲鳴は……。心配になったが、転んで打ち付けた額の痛みや割れた鏡へのショックでそれどころではなかった。
――ドンドンドンドン!
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