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・ヲチ壱『俺がSNSを続ける理由』
夜の住宅街に突如として青白い顔が浮かびあがった。
俺は驚いて目を見開く、するとそれはスマホの画面に照らされた女の顔だと分かった。
駅から15分ほど歩いた地元の路地には薄暗い街灯しかなく、そんな場所に突っ立って一人でスマホをいじる女を不審に思いつつも、バイト帰りで疲れていた俺は、そのまま黙って女の横を通り過ぎようとしていた……
「星崎君?」
「えっ?」
「あたしよ、分からない?」
俺は女の顔をまじまじと見つめるが記憶に無い顔だった。
見た目は俺と同い年ぐらいだろうか、バサバサと傷んだ髪にスウェットの上下という恰好で、ちょっとした用事で家から近所に出てきたような雰囲気を漂わせている。
「んん……」相手のことを思い出せずに俺が口ごもっていると、「あたしが誰だか分からないんでしょ、こっちは小学生の頃の星崎君だって知ってるのに」と言ってクスクス笑った。
「ははは、ごめん。何年の時に一緒だった?」
「クラスは一緒じゃなかったよ。でも小学生の頃からずっと一緒みたいなもんだけど」
「ええ、どういうこと? 登校班が一緒だったとか?」
「違うよ。でもずっと見てた」
真っすぐ俺を見つめて女はそう言った。
ずっと見てた、という言葉に何やら片思い的な恋愛のニュアンスを感じつつ、俺は子供の頃に通っていたスイミングスクールや子供会の様子なども思い浮かべてみるのだが、記憶の中にこの女はまったく現れてくれない。
「んん、答えを教えてよ、どこで一緒だったの?」
「あたしは星崎君をよく知ってるのに、星崎君はあたしのこと何も知らないのね」
「ごめん、でも本当に思い出せないんだ」
「小学生の頃だけじゃないの、それ以降もずっとあたしは星崎君を見てるんだよ」そう言って女は手に持っていたスマホの画面を俺に向けた。
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