クジラの夢

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 マニアスプレッダーには堆肥(たいひ)を砕くための大きなブレードが三タイプついている。 重くて硬い堆肥をそのブレードで「バラバラに粉砕」し、辺り一面に「細かくなった破片をぶちまける」そうだ。  座っていられなくなるくらい、身体がムズムズした。  大体、時間がおかしい。 なんだってこんな早朝に、普段見慣れているはずの農機具なんかで事故が起きたんだろう。 あんなメッセージを私に送ったあとで。  ふと、C美は自殺なのではないか、と思った。  そして思い出したのは、一年前に聞いた不思議なゲームの話だった。  タイトルは奇跡的に覚えていた。 これも検索してみたが、『クジラの夢』なんてゲームはヒットしない。  招待制と言ってたし、あまり公にはしていないのかもしれない。 大体、ゲームが自殺に関係しているなんて考えすぎだ。  当時の私はそう思って、それ以上考えるのはやめた。  それから四年後、今年の春に、私は高校生になった。 そのころにはC美のことをすっかり忘れていた。 新しい学校と新しい友達関係とで、忙しかったからかもしれない。  それでも久しぶりにC美のことを思い出したのは、偶然見たニュースがきっかけだった。 『半年で130人の子供が自殺』。  ロシアで『青いくじら』という自殺誘発ゲームが流行し、実際に何人かが自殺してしまったらしい。 SNSを介して対象者にいろいろなミッションを与え、クリアさせていき、最後には自殺に追い込むのだという。  ものすごく有名な事件でニュースでもガンガンやっていたので、知っている人は多いと思う。 今も検索すれば、ウィキペディアを始めとしていろいろな情報が出てくる。  私は、真っ先にC美を思い出した。 スマホでいろいろなネット記事を調べてみた。 首謀者はロシアの青年で、もう逮捕されたらしい。  不思議に思ったのは、その時期だ。 ロシアの青年が『青いくじら』を始めた年よりも、C美が『クジラの夢』を知った年の方が一年早い。 無関係というには偶然の一致が過ぎるけれど、そのロシア人が関与していると考えるには順番が逆だ。  かといって『クジラの夢』が元祖とすると、なぜロシアの件があったのに『クジラの夢』は報道すらされてないのかが分からなくなる。
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