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――しばらく読みふけったあと、お風呂で呼ばれて、そこでまたヒメのことを考えた。お風呂から上がる。
忘れていてごめん。そう心の中でつぶやいて、ふたたびヒメの様子を見る。何も変わっていなかった。ちょっとヒメが動いたか、そんなくらい。
あまりにもの変わり映えのしなさに、しいくケースのふたを開けて、たいくつまぎれにおがくずに指をつっこんだりしてみた。しめったおがくずの、ひんやりとした冷たさが指先にまとわりつく。
ずぼずぼ。ずぼずぼ。そして、最後につんっとヒメをつついてみた。
けれど、からかったり、かわいがったりしているというよりは、いじめているみたいな気持ちになってしまった。
「……、わたし、本当に優しいのかな」
優しいってなんなんだろう。
そう考えてしまう自分が、自分で嫌になってきた。それをふりはらうように、わたしは部屋の明かりを消して布団の中に飛び込み、頭まですっぽりと布団をかぶった。さすがに少し暑い。
がばりと布団をめくって顔を出し、ぼやあっと見え始める暗い部屋の中、しいくケースに向かって、「おやすみ」と声をかけた。もちろん、返事はない。わたしは、ゆっくりと目を閉じた。6本の足で元気に木をよじ登るヒメという、かなわない夢をそうぞうしながら。
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