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二日目
今日のわたしは、上きげんだ。
なんて言ったって、朝起きるとひとかじりもしていなかったゼリーが、少しだけへっていたのだ。カブトムシの大食いを知っている身としては、物足りなくも感じたけれど。少しだけでも、ヒメが元気になったようでうれしかった。
お母さんは、――朝から嫌いな虫を見せられたら怒るから、お父さんにほうこくした。「りおのおかげだよ」とよろこんでくれた。――このまま、元気になってくれるかな。「そうだといいね」とお父さんは笑った。お父さんから、ほのかにコーヒーの香りがした。
まだ、よわよわしくはあるけれど。これから少しずつ、少しずつ元気になって。――そして、ちょっとだけ、そう。ちょっとだけ、ヒメとながくいれたら。そんな願いをひとみにこめて、わたしはヒメの小さなひとみを見つめた。黒くてまん丸で、かわいいひとみだ。
しいくケースを見つめながら鼻うたをうたっていると、インターホンの音がこだました。一階に下りて、鍵を開けると引き戸を静かに開けて、タツヤが入ってきた。
「今日、来なかったからよ」
「トオルくんとか、テツヤくんは?」
「い、いいよ……。最近あいつらと、もうつるんでいないしっ」
たしかに、タツヤはここのところ、ずっとわたしとふたりきりだった。
「だ、だから。どうせなら、りおん家に――」
タツヤがきまり悪そうに言った。ところどころ背伸びした低い声が、上ずって、まだ声変わりしていない声に戻っている。それを聞いていると、こっちまで少しはずかしくなってしまう。
「そ、そう」
そっけなく聞こえたかな。けれど、心の中は少し浮ついていた。
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