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「お昼も食べていいか」
「そうめんでよければ」
「この季節はそうなるよな」
タツヤはぎょうぎよく、くつをそろえて、やけにきょろきょろしながら、ろうかへと足をふみ入れる。
「どうしたの」
「な、なにがっ」
「きょろきょろしてる」
「べつに」
「タツヤおかしい」
「おかしくねえよ」
くすぐったい会話だ。
「お母さーん、今日のお昼、タツヤも一緒に食べるってー。いいよねー?」
居間で洗たくものをたたんでいるお母さんに呼びかけた。
「あら、そう。じゃあ、多めにゆでとくわね」
「おじゃまします」
わたしの背中から、そろりと出てきて、タツヤはやけに静かなあいさつをする。「はいよー」と返事をするお母さんは、少しにやついていた。
「こっちこっち」
階段に上がりながら手招きすると、タツヤはびくっと肩をはね上がらせた。思わずこっちまでびっくりしてしまう。
「どうしたの」
「いや、居間じゃないのかって――」
「前にも入ったことあるでしょ」
「そりゃそうだけどさ」
前っていうのは、たしか小学生に上がりたてかそれくらい。
そのころと今とはちがう。そうとでも言いたげなタツヤのたいど。クーラーがきいていない、ねつのこもったろうか。じっとりと汗ばんだシャツが、肌にくっついていくのを感じた。――じれったいなあ。
わたしは階段を下りて、下でまごつくタツヤの手を引いた。ふたりの手が汗でぬるりとすべった。もう一度、しっかりとたぐりよせて、ぎゅっとつかむ。――なんでだろう。少しだけ、息がつまるように感じた。暑さでまどろんだまぶたが、はっと開くのと同時に、タツヤがごくりとのどを動かしたのが見えた。
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