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――だけど、わたしが女の子だから、なんなんだ。好きなものは、好きなんだ。そんな気持ちを込めて、ほほをふくらませた。引き戸をわざとらしく、らんぼうにがらがら音を立てて開ける。ばちんと音を立てて、引き戸がはね返ってきた。それをそっと閉めて、裏の山へとかけて行った。
一度、母に聞いたことがある。
女の子は虫取りをしちゃいけないのと。女の子なんだから、女の子らしくしなさいと答えが返ってきた。わたしは、それがよくわからなくて、ただお母さんにはんこうするように、お父さんが買ってくれた虫取りあみと虫かごを持って、裏の山に行く。今年の夏も。だけど――
「りお。なんで虫取りなんかするんだよ」
「女の子が虫取りなんかして、男の子みたいだぞっ」
「悪かったわねー。男の子みたいで、べーだっ!」
女の子が女の子だけで遊ぶようになったのと合わせて、わたしは男の子から遠ざけられるようになった。去年までは、いっしょに虫取りをしたトオルくんや、テツヤくんも、そんな言葉をわたしにかけるようになってしまった。
夏の日差しが暑い。おでこにふつふつと汗がわき出て、背中をつうとしずくが伝った。今日も嫌われた。
じりじりじり。みーんみんみーん。
夏の日差しとセミの声が、わたしの心に、いっそうつきささるようだった。
「――やめろよ」
そしてこの流れがあるから、わたしは遠ざけられても暑い日差しの中、山を登っていく。決まってタツヤがそう言ってくれるから。
こっちに歩いてくるタツヤのうしろで、「あいつらできてんだよ」などとひそひそ話をしている。ますます、わたしのほほはふくれるけれど、少しだけ胸がかゆくなるようだった。
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