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「りお、――行くぞっ」
男の子たちから抜け出て、わたしのところへ歩み寄るとき、タツヤはわざと低い声を出す。ちょっと背伸びした声だ。そして山道では、わたしよりも少しだけ前を行く。背たけが高い草が生えているようなところでは、それをたおして道をつくってくれる。
「りお。そこ気をつけろよ」
足元に木の根っこがせり出しているときは、それをわざわざ言ってくれる。
そんな風になったのは、いつからかな。――わたしに優しくしてくれるのはタツヤだけだ。
他の男の子はみんな、女の子らしい女の子が好きだ。男の子みたいなわたしは、みんなから遠ざけられて、青々とした葉っぱたちを通り抜けてくる木もれ日にてらされながら、入道雲のようなもやもやを胸に抱いている。
「ねえ、タツヤ。昨日ふたりでしかけたの、何か取れてるかな」
「バナナはカブトムシとか、クワガタが寄ってくるんだ。運が良ければいるって」
タツヤと昨日わなをしかけた場所に行く。
森の中のクヌギの木。根元に生えたキノコが目印。その幹にストッキングに入れた古いバナナを巻きつけた。
「見ろよ、りお。いたぞっ」
タツヤのつくった声がとけて、かん高い声が森の中でこだました。
それを聞いてわたしも木の幹に向かって、ふたりでかけっこをするように走った。ストッキングに、ぴかぴかと光った小さな小さな丸い、こげ茶色の背中が見える。
――だけど、もう少しで木の幹にたどり着くところで、タツヤは不満そうに言った。
「ダメだ。メスだ」
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