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しかけたわなにかかっていたのは、カブトムシのメスだった。
カブトムシのメスには角がない。だからかっこよくない。男の子はそう言っていたし、わたしもそうだった。だけど――
「メスのなにがいけないの」
気が付けば、そんなことばが口から出ていた。
「――いや、角がないし、ほら……ケガもしている」
おでこからほほに伝う汗をぬぐう。
タツヤの手のひらの上をよわよわしく歩くカブトムシ。足が4本しかなかった。
「こいつ、もうながくないだろうな」
またタツヤの声が低くなった。
今度は、わたしの前でつくっているからとか、そんなんじゃない。悲しい声の色をしていた。かわいそうだけどと顔をゆがめて、タツヤはカブトムシを木の根元に戻した。
「待って」
そこでわたしは、タツヤを呼びとめた。
どうして、それを止めたのか。自分でもよくわからなかった。
カブトムシは角がないとかっこよくない。そんなこととっくに知っているのに。
「このコ、わたしがめんどう見る」
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