4人が本棚に入れています
本棚に追加
どうして、そんなことばが口をついて出たんだろう。
「で、でも――、メスだし。足はもげてるし」
「いいよ。ながくないなら、お母さんにけむたがれるのも、ちょっとだけだし」
「りおんとこの母さん、虫苦手だろ?」
「お母さん、足が4本なら大丈夫だし」
「はぁあ?」
タツヤがあきれたような声を出した。足が4本だろうが虫は虫だろと。
全くそうだろう。
部屋にあるチョウやトンボのひょうほんは、ぴかぴかしていてきれいな物ばかり。なのに、お母さんはそれを見ようともしない。生きていて足が動く虫なら、ゴキブリと大して変わらないとでもいうかのように、気持ち悪がるだろう。
そんなことは分かりきっていたけれど。――わたしはそのコを自分の意地を押し通すかのように、虫かごの中へとつかみ入れた。
「わたしが決めたことだから」
「でも――」
「しつこいっ!」
何かを言いかけたタツヤに、大きな声をあびせてだまらせた。――少し、悪いことをしたと思う。やっぱりどうかしていたのだと思う。
帰り道。無言で戻るわたしたち。虫かごの中のカブトムシは、今にも動かなくなりそうで。心配なわたしは、虫かごを顔の前に持ち上げて、あみのすき間から見守りながら山を下った。らんぼうにされたのに、タツヤは相も変わらずに、木の根がせり出している場所を教えてくれた。
「りお、さっきはごめん」
途中で、タツヤがなぜかわたしにあやまった。あやまらなければいけないのは、よくよく考えればわたしのほうなのに。
「なんでタツヤがあやまんのよ」
「い、いや……べつに」
「わたしも、――らんぼう言ってごめん」
わたしの前を行く背中に、虫かごごしに話しかけた。わたしの声を聞いて、カブトムシはおびえるように、足をちぢこめた。
最初のコメントを投稿しよう!