一日目。

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 どうして、そんなことばが口をついて出たんだろう。 「で、でも――、メスだし。足はもげてるし」 「いいよ。ながくないなら、お母さんにけむたがれるのも、ちょっとだけだし」 「りおんとこの母さん、虫苦手だろ?」 「お母さん、足が4本なら大丈夫だし」 「はぁあ?」  タツヤがあきれたような声を出した。足が4本だろうが虫は虫だろと。  全くそうだろう。  部屋にあるチョウやトンボのひょうほんは、ぴかぴかしていてきれいな物ばかり。なのに、お母さんはそれを見ようともしない。生きていて足が動く虫なら、ゴキブリと大して変わらないとでもいうかのように、気持ち悪がるだろう。  そんなことは分かりきっていたけれど。――わたしはそのコを自分の意地を押し通すかのように、虫かごの中へとつかみ入れた。 「わたしが決めたことだから」 「でも――」 「しつこいっ!」  何かを言いかけたタツヤに、大きな声をあびせてだまらせた。――少し、悪いことをしたと思う。やっぱりどうかしていたのだと思う。  帰り道。無言で戻るわたしたち。虫かごの中のカブトムシは、今にも動かなくなりそうで。心配なわたしは、虫かごを顔の前に持ち上げて、あみのすき間から見守りながら山を下った。らんぼうにされたのに、タツヤは相も変わらずに、木の根がせり出している場所を教えてくれた。 「りお、さっきはごめん」  途中で、タツヤがなぜかわたしにあやまった。あやまらなければいけないのは、よくよく考えればわたしのほうなのに。 「なんでタツヤがあやまんのよ」 「い、いや……べつに」 「わたしも、――らんぼう言ってごめん」  わたしの前を行く背中に、虫かごごしに話しかけた。わたしの声を聞いて、カブトムシはおびえるように、足をちぢこめた。
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