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べんきょうづくえの上に、しいくケースをそっと置く。きっとわずかなゆれでも、ヒメには大事件だと思うから。
かたわらに置いて、漢字ドリルを開いた。
――かりかりとえんぴつを走らせる。ぱきんとしんが飛んで、集中力が切れた。
「きゅうけいっ」
背すじをぐいーっとのばしながら時計を見る。時計の針は、六時半を指そうとしていた。そろそろごはんの時間だ。
べんきょうづくえのかたすみに置いたヒメの虫かご。ヒメはまだごはんを食べていない。くち木でつくったえさ入れにはめこんだゼリーには、ひとかじりしたあとすらない。
かべにかかったチョウトンボのひょうほんに目をうつす。
青い羽がぴかぴかと、部屋の光を反射していてきれいだ。タマムシやアオスジアゲハ。どれもこれもお父さんにおねだりして買ってもらったもの。お母さんには、変なものをほしがるわねと言われたから、お父さんといっしょになって、あっかんべーしてやった。
――いつか、いや、きっとすぐ。ヒメもこのひょうほんのように、動かなくなってしまうのかな。考えたくないけれど、考えずにはいられなかった。
ぼうっとしていると、がちゃりとかぎが開く音が、下からひびいてきた。その音を聞いてわたしはびくんとはね上がった。
「いつもより早いっ!」
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