4人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば、りおがカブトムシをつかまえてきたみたいなの。りおは何回かかったことがあるから大丈夫だとは思うけど、あなた、見てやってくれない? ――わたしは、虫のことはよく分からないし、できればあんまり……」
お母さんは虫がきらいだし、さわれないけれど、わたしのことは気にはかけてくれる。対してお父さんは、虫取りをわたしに教えたこともあって、虫のかい方にはくわしい。わたしは気になっていることを聞いてみた。
「お父さん、虫にはおくすりってあるの?」
お父さんはちょっとだけだまってから、悲しそうな顔をしながら、「ないと思うよ」と答えて苦笑いをした。半分くらい、わかっていたことだけど、その返事を聞いて悲しくなってしまった。
「そのカブトムシ、足が4本しかないみたいなの。角もないけど」
「ケガをしたメスのカブトムシか」
そこでまた、お父さんはだまった。うつむいたわたしの顔をちらりと見やり、せきばらいをした。
「ケガをしたのを連れ帰ったのか」
「……、元気になるかな」
ぼそりとつぶやくと、お父さんは「りおは優しいな」と言って、わたしの頭をわしゃわしゃとなでた。
「もげた足はもどらないよね」
「……、かわいそうだけどね」
かわいそう。おとうさんのその言葉が胸につきささった。
わたしはどうしてヒメを連れ帰ったのかな。いくら、わたしが優しくても、ヒメはどうにもならなくて、かわいそうなまま。そう考えると、自分がやったことがどこかむなしく感じた。――そこで会話はやんで、静かな食事になった。とちゅう、気まずくなったのか、お母さんがテレビの話題をした。けれど、あまり続かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!