一日目。

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「そういえば、りおがカブトムシをつかまえてきたみたいなの。りおは何回かかったことがあるから大丈夫だとは思うけど、あなた、見てやってくれない? ――わたしは、虫のことはよく分からないし、できればあんまり……」  お母さんは虫がきらいだし、さわれないけれど、わたしのことは気にはかけてくれる。対してお父さんは、虫取りをわたしに教えたこともあって、虫のかい方にはくわしい。わたしは気になっていることを聞いてみた。 「お父さん、虫にはおくすりってあるの?」  お父さんはちょっとだけだまってから、悲しそうな顔をしながら、「ないと思うよ」と答えて苦笑いをした。半分くらい、わかっていたことだけど、その返事を聞いて悲しくなってしまった。 「そのカブトムシ、足が4本しかないみたいなの。角もないけど」 「ケガをしたメスのカブトムシか」  そこでまた、お父さんはだまった。うつむいたわたしの顔をちらりと見やり、せきばらいをした。 「ケガをしたのを連れ帰ったのか」 「……、元気になるかな」  ぼそりとつぶやくと、お父さんは「りおは優しいな」と言って、わたしの頭をわしゃわしゃとなでた。 「もげた足はもどらないよね」 「……、かわいそうだけどね」  かわいそう。おとうさんのその言葉が胸につきささった。  わたしはどうしてヒメを連れ帰ったのかな。いくら、わたしが優しくても、ヒメはどうにもならなくて、かわいそうなまま。そう考えると、自分がやったことがどこかむなしく感じた。――そこで会話はやんで、静かな食事になった。とちゅう、気まずくなったのか、お母さんがテレビの話題をした。けれど、あまり続かなかった。
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