75食目 押し入れ

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ちいちゃんや、ちいちゃんや 押し入れは暗いけれど怖い場所ではないのよ 押し入れはね、不思議な空間に繋がっていることがあるの だから、押し入れは大切にして怖い事があったら逃げ込みなさい そうしたらね、怖いのはみーんな押し入れが食べてくれるから しわくちゃの手 優しくて暖かくてとても安心できる優しい存在……… 大好きな祖母はそう何度も繰り返し、幼い私に押し入れの話を言い聞かせてくれたのだった。 ガラスの割れる音、壊れんばかり叩かれるドア、怒鳴る声……… 幼少期の私の生活は決していいと言えぬ環境だった。 父と母は根っからのダメ人間でギャンブルですぐ金を溶かす、朝から酒を飲みそして借金まみれでいつも玄関には金を返せやらの張り紙がされていた。 そんな父と母が子育てなんてしてくれるはずもなくむしろ幼い自分に真冬に冷水をかけて外に放り出したり、時にはタバコの火を押し当てたりして痛がる自分の顔を見てゲラゲラ笑ったりする最低人間だった。 だけどそんな環境で耐えられたのは、数回しか会ったことがない母方の優しい祖母の存在があったからだ。 母の気まぐれで連れて来られた母の実家で、祖母は本当に母と血が繋がっているのかと思うくらいとても優しく誠実な人間だった。 冷えたコンビニのおにぎりじゃなくて優しい食事、冷たい床じゃなくて暖かい布団、拳が握られた若しくは煙草やコップが握られた痛いことをしてくれる指輪やネイルのほどこされた手じゃなく、しわくちゃだけど温かく優しい手………。 そんな祖母が好きだった。 そんな祖母が教えてくれた押し入れの話………。 押し入れの中に逃げれば暗くて狭いけど、安心して本当に守られている感じがして嬉しかった。
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