75食目 押し入れ

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そんなある日のこと……… その日は父と母の機嫌が最高に悪かった。パチンコで負けたのか、それとも借金取りに出くわしたのかは分からなかったけど帰宅して早々父親は私の顔を殴ってきた。 母親も長い爪で引っ掻いたり蹴ってきたりして来てこのままじゃ殺される!と、幼いながらに悟った私は必死に押し入れに逃げた。 暗い押し入れ、すぐに壁があるはずの押し入れには何故か壁がなくて私は押し入れの中を四つん這いになって這いずりながら必死に逃げた。 遠くから聞こえる両親の罵声、そして思い出すのは優しい祖母の顔……… どうせここで死んでしまうのなら、せめて最期にもう一度だけ祖母の顔がみたい………。 どこまでも続く暗い押し入れの空間で、私はただ祖母の顔を浮かべて涙を流しそこで意識が途絶えた。 柔らかく暖かい感触が額を撫で、優しい声が私を呼ぶ………。 ふと、目を開けるとそこには涙を流している祖母の顔があってツンと香る消毒薬の香りと白い風景に自分が病院のベットで寝かされていたことを知った。 ちいちゃん、ちいちゃんと泣きながら私を呼ぶ祖母。 その暖かな体温に触れて自分がまだ生きていると知った私は、急に涙が出てきてワンワンと病室のベットで祖母の手を握りしめながら泣いた。 後から知ったのだが、私は祖母の家の押し入れの中で倒れていたらしい。だけど不思議なのは、私の家は千葉にあり祖母の家は新潟………どう考えても子供一人で行ける距離ではない。 私は祖母に押し入れで祖母の顔を思い出したと言えば、祖母は押し入れがちいちゃんを守ってくれたんだねえと笑ってくれた。 私はその後、祖母の家で暮らすようになり栄養失調気味だった身体は祖母の美味しい料理です平均体重に戻り傷も今ではほとんど残っていない。 ちなみに両親はというと、何故か忽然と姿を消したらしい。 借金取りにさらわれたか、もしくは県外に逃亡したかよくは分からない。 だけど私は知っている、両親は押し入れに食われてしまったのだ………。 だって、私はあの時ハッキリ聞いたから。 押し入れの中、暗闇を必死に逃げる私の隣でボリボリとナニカに喰われ悲鳴を上げていた両親の声を………。 私は今でも押し入れが好き。 だって、押し入れは怖いものを食べてくれる素敵な存在だから………。
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