序章

10/12
前へ
/314ページ
次へ
 堕天という言葉にラフィーナは驚き、掴みあげられていた腕から力を抜いた。美しくも邪気を孕む天使は、理解できないほど優しくラフィーナを見つめている。 「何故……?」 「天使の世界はそなたら人間が思うほど美しくも気高くも無い。私はそれら全てのしがらみを捨て、自由を手に入れる。だが一人で自由と叫んでも、実感が沸かぬ。そなたは縛られているのだろう? ならば、私と来い。共に自由を得ようぞ」  ラフィーナは訳が分からず、大粒の黒曜石の瞳を瞬いた。しかし、何度瞬いてもその瞳に映るのは深紅の瞳で、これが夢で無いと自覚させられる。 「何故、わたくしなの?」  天使は答えず、そっとラフィーナの漆黒の前髪を払った。露になった白い額には、傷とも見れる紋が存在していた。天使はラフィーナの額に刻まれた紋に、冷ややかな指先で触れる。その紋は、ラフィーナが滅びの女神に愛され生まれてきた証であった。神々に愛された者には、身体のどこかに紋が刻まれる。ラフィーナは生れ落ちた時より、額に古代ルーン文字を連想させる滅びの紋があったのだ。 「そなたは私と同じ……。それに枯らすには惜しい花だ」  そう言って、天使はラフィーナの腕を解放した。額に触れていた手も離し、ゆっくりと天使は立ち上がる。  ラフィーナは天使を不思議そうに見上げた。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加