第一章 -5- 堕天

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 手を伸ばし、落ちていく天使の黒衣の裾を掴む。指先に確かな重みが伝わり、力任せに引っ張った。途端、落ちる速度が弱まり、呻き声らしきものが空に零れた。 「死にたいのか!?」  ラグナの服を両手で掴み、ラキエルは門へ戻るべく舞い上がる。しかし、思いのほか重量のあるラグナのせいで上手く飛ぶことができず、向かい風にすらよろめいた。 「光を消せ」  何度もすれすれで通り過ぎていく矢を横目に、ラグナを叱咤すると、彼はすぐさま杖の先端の光を消した。再び闇が全てを飲み込んだが、門の場所は既に記憶している。ラキエルはひたすら、背後より確実に追いついてくる気配から逃げるために飛んだ。 「ラキエル、手を離せ」 「なら自分で飛べ」 「……はは、死にたいのか?」  どんな時でも憎まれ口だけは忘れないラグナを冷ややかに見やる。 「黙れ」  助けてもらったはずなのに、どうしてか心に沸き起こる怒りを抑えられず、ラキエルは普段よりも厳しい口調で言う。するとラグナは小さく忍び笑いを零した。しかし先程の余裕の口を叩く事はなかった。     
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