第一章 -5- 堕天

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 何がおかしいのかもわからない。ラグナの行動には不透明な部分が多すぎて、ラキエルには理解できない。ただ苛々とする感情の裏で、この青年を死なせてはいけないような気がした。自分を救ってくれたとか、そんな理由からではない。ただ、天使とは思えぬ捩れ方をしたラグナを更生させたいとでも望んでいるのだろうか。または、彼の言うとおり御節介を焼きたいだけなのか。  ただ、この青年を死なせてはいけないと思った。  自分の命すらとても軽く扱ってきたラキエルだから、誰かを守る方法など知らない。それでも、今ここで何をすれば良いのか、それだけは明確にわかっていた。  ――手を、離さなければいい。  手を離さなければ、置いていく事も、置いていかれる事も無い。  守る方法は知らないけれど、どうすれば失わずに済むのかは知っていた。  きっと、生まれたときから。  翼を羽ばたかせて、ラキエルは一直線に飛んだ。  背後は振り返らない。ただ前を見つめて、門を目指して。横を過ぎていく矢も視界には入らなかった。  風の音が消え、空も消える。ラキエルと門の狭間には目で見えない道が敷かれ、それを翼を持って渡るだけ。逃げるための道を、ひたすら進んだ。幾度か背や翼に痛みを感じたが、それすらもラキエルを止める理由にはならなかった。  指先が門に届く気がした。  ラキエルは門へと手を伸ばした。
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