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薄暗い部屋で、娘は微笑んだ。
月の光の届く全てを知りえる娘は、何も映さぬ瞳で初めから終わりまでを見届けた。
そして彼の『望み』が達成された事を知り、心の奥底から喜んだ。娘ではできなかった事を、彼はしてくれた。それだけで、娘は満足だった。
娘は音も無く立ち上がり、空間を移動した。
いくつもの結界を難なくすり抜けて、娘が現れ出でたのは、彼女以外一人だけしか知らぬ部屋だった。豪奢な薔薇窓から、色取り取りの硝子によって色付いた月の光が静々と降り注いでいる。広い部屋の中心には、ぽつりと棺が存在していた。無機質な黒曜石の棺。その前には、一人の老天使が佇んでいた。
娘は老天使を見つけると、そっと足音を立てないように近づく。そして老天使の隣に身を並べた。
「貴方がここへお出でになるとは、珍しい事あるものです」
しゃがれながらもよく通る声が、静寂を破り響き渡る。娘、サリエルはやんわりと微笑んで、老天使よりも一歩前へと進み出た。
『ええ。もうじきフィーオがわたくしを探すでしょうから、先に逃げてきたの。ディエル、貴方は何故ここに?』
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