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ディエルはかけてやれる言葉が見つからず、搾り出すように名を呼んだ。
サリエルは瞳を伏せて、俯きがちにぼんやりと視線を遊ばす。
『時々思うの。もしもわたくしにもう少し勇気があったなら、あの子を解放してあげられたのに、と。なのに、わたくしはあの子を縛り、守る事しか考えてなかった。……あの子がそれを望んでないと解っていたのに』
だから、嫌われてしまったのね。
小さく囁いて、サリエルは自嘲気味に微笑んだ。
「ラグナは、貴方を嫌ってなんてない」
『ええ。今も昔も、あの子は優しいから……。だから逃げる事しかできないの』
「ラグナが逃げれば逃げるほど、貴方は孤独になられた。それでも、あれを優しいと仰るのですか?」
『……ラグナの心は、わたくしが一番良く分かってる。そうね、ディエルの言う通り、わたくしはとても寂しいわ……。でも、あの子に不自由な思いをさせるくらいなら、寂しさなんて。……わたくしはこれで良かったと思ってるのよ』
未来は知らない。
彼らがこれからどんな道を歩むのかも、不幸になるか幸福になるか、それすらもわからない。彼にとって何が幸せなのか、サリエルにはわからなかった。ただ一方的に愛情を押し付けて、それですべてが上手くいくと思っていた。
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