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結果は、ラグナを遠ざけただけで、彼を幸せにはできなかった。
だから、今度は彼の好きにさせてやりたいと願った。
たとえそれが、堕天と言う罪を背負う事になっても。
『ディエル、彼らを逃がしたのはわたくしです』
ディエルを真っ直ぐに見つめ、サリエルは心を決めたようにはっきりと告げた。
そこには今にも消えてしまいそうだった儚い少女の姿はなく、女神としての仮面を貼り付けた神の娘がいた。
『わたくしの楔は逃げました。でも、わたくしはどこにも逃げません』
だから、誰よりも不自由だった可哀相な人を、見逃してあげて欲しい。
サリエルの言いたい事が薄っすらとだが解り、ディエルは女神から目を逸らした。
彼女の言い分は解る。だが、それを受け入れるかどうかは、ディエルが決めるわけではない。彼女の望みを叶えてやりたいが、それは容易でないのだ。
それに、逃げたのはラグナだけではない。
彼一人ならば、もしかしたら見逃されたのかもしれない。
けれど、ラグナはもう一羽の鳥を連れて行ってしまった。
かつて天界より逃げ出した、紅き天使と良く似た青年を、死から遠ざけてしまった。それが、どんな災厄を呼ぶのかも知らずに。
黙るディエルに気付き、サリエルは厳格な表情を崩して微笑んだ。
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