第一章 -5- 堕天

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 結果は、ラグナを遠ざけただけで、彼を幸せにはできなかった。  だから、今度は彼の好きにさせてやりたいと願った。  たとえそれが、堕天と言う罪を背負う事になっても。 『ディエル、彼らを逃がしたのはわたくしです』  ディエルを真っ直ぐに見つめ、サリエルは心を決めたようにはっきりと告げた。  そこには今にも消えてしまいそうだった儚い少女の姿はなく、女神としての仮面を貼り付けた神の娘がいた。 『わたくしの楔は逃げました。でも、わたくしはどこにも逃げません』  だから、誰よりも不自由だった可哀相な人を、見逃してあげて欲しい。  サリエルの言いたい事が薄っすらとだが解り、ディエルは女神から目を逸らした。  彼女の言い分は解る。だが、それを受け入れるかどうかは、ディエルが決めるわけではない。彼女の望みを叶えてやりたいが、それは容易でないのだ。  それに、逃げたのはラグナだけではない。  彼一人ならば、もしかしたら見逃されたのかもしれない。  けれど、ラグナはもう一羽の鳥を連れて行ってしまった。  かつて天界より逃げ出した、紅き天使と良く似た青年を、死から遠ざけてしまった。それが、どんな災厄を呼ぶのかも知らずに。  黙るディエルに気付き、サリエルは厳格な表情を崩して微笑んだ。     
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