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『ごめんなさい。これは、貴方ではなくフィーオに言わねばならない事』
「お力になれず、申し訳ない」
『いいえ。貴方には迷惑ばかりかけてしまって、ごめんなさい。聞いてくれて、ありがとう』
サリエルがこの場所へ来たのは、最後の懺悔をするためだった。
誰かに聞いてもらうつもりなど無かった。
だが、偶然にもディエルが居合わせ、自然と全てを告げてしまっていた。
それでどうにかなるわけではないのに、サリエルは少しばかり心が軽くなったような気がした。
サリエルの言葉を最後に、再び沈黙が満ちる。
サリエルはそっと、この聖堂にぽつりと存在する棺へと歩み寄った。
漆黒に輝く黒曜石の棺は、重々しい姿とは裏腹に、永久に眠る命を抱いていた。
棺の中に亡骸はない。だが、その中には確かに、目覚めぬ魂が存在している。異例の自由を手にした魂は、ただ眠り続ける。黒い棺の中で、誰にも知られずに。
棺の上には、瑞々しく真っ白な花が飾られていた。それに気付き、サリエルはまだ蕾の花を一輪手に取る。己の魔力を与えると、花は蕾を開き、繊細な美しさをサリエルに見せた。
『貴方が花を……?』
サリエルと老天使しか知らぬであろうこの場所に添えられた花。
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