第一章 -6- 罪と罰

1/17
前へ
/314ページ
次へ

第一章 -6- 罪と罰

 欠けた三日月が寂しげに、光を零している。  月を慰めるように淡く輝く小さな星は、夕闇に飲まれるようにして次第に遠ざかり、一つ、また一つと消えていく。天にも地にも存在していた空が、少しずつ遠ざかっていた。  それは自分が落ちているせいだと気付くまで、かなりの時間を要した。  意識がぼんやりとして瞳を閉じようとする己を、痛みが引き止める。背中がしびれているのか、翼を動かそうと思っても思い通りに動いてくれない。それなのに、血が巡るたびに溢れる痛みは途切れず、意識を手放す事を許さない。 (――落ちる)  どこまで、落ちるのだろう。  空が遠ざかり、下には何があるのだろう。  ふとそんな事を考えていると、ラキエルの腕の先で何かが動いた。  ラキエルは先程まで、ラグナの服を掴んでいた事を思い出す。だが、背の激痛に全身の力が抜けて、ラキエルの指先は宙を漂っていた。その手を、冷たい手が取る。 「生きてるか?」  唐突に問いかけられて、ラキエルは唸るような声で短く答えた。けれど声は言葉にならず、弱りきった獣のような音だけを虚しく零す。しかし答えがあるという事は肯定だと取ったらしく、相手は安堵の息を漏らす。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加