135人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章 -6- 罪と罰
欠けた三日月が寂しげに、光を零している。
月を慰めるように淡く輝く小さな星は、夕闇に飲まれるようにして次第に遠ざかり、一つ、また一つと消えていく。天にも地にも存在していた空が、少しずつ遠ざかっていた。
それは自分が落ちているせいだと気付くまで、かなりの時間を要した。
意識がぼんやりとして瞳を閉じようとする己を、痛みが引き止める。背中がしびれているのか、翼を動かそうと思っても思い通りに動いてくれない。それなのに、血が巡るたびに溢れる痛みは途切れず、意識を手放す事を許さない。
(――落ちる)
どこまで、落ちるのだろう。
空が遠ざかり、下には何があるのだろう。
ふとそんな事を考えていると、ラキエルの腕の先で何かが動いた。
ラキエルは先程まで、ラグナの服を掴んでいた事を思い出す。だが、背の激痛に全身の力が抜けて、ラキエルの指先は宙を漂っていた。その手を、冷たい手が取る。
「生きてるか?」
唐突に問いかけられて、ラキエルは唸るような声で短く答えた。けれど声は言葉にならず、弱りきった獣のような音だけを虚しく零す。しかし答えがあるという事は肯定だと取ったらしく、相手は安堵の息を漏らす。
最初のコメントを投稿しよう!