第一章 -6- 罪と罰

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 天使の名前の最後につく『エル』は、天使の世界では神と言う意味合いが込められている。だから、神の使いにして神の子である天使の名は、決まってエルが付く。ラキエルも然り。ディエルも然り。ラグナも本来ならばラグナエルである。しかし、それを声に出して呼ぶには、少しばかり長い気がする。  それに、ラグナの言葉で気付いたが、ラキエルはもう天使ではない。天使を名乗る事は許されない。翼を黒く染める気など無いが、天意に逆らった二人は天使であって天使ではない。  ラグナの場合、エルを省いたのは恐らく、呼ぶのが面倒だったからだろう。しかしラキエルはラグナの本音など気付くはずもなく、ラグナの言葉を深読みして頷く。  ラグナは今までどおりラグナと呼べばいい。けれどラキエルは、これからはラキとなる。短い名前に違和感こそ覚えるが、それも悪くは無い気がした。 「……もしもディエル様が俺の立場だったら、『ディ』になるのか?」  ラグナは一瞬馬鹿を見るような目でラキエルを見つめた。しかし、その表情は見る見るうちにだらしなく破顔し、笑顔を形作る。 「ばぁっか。じじぃはじじぃだよ! あんた下らないことばっか聞くのな」  相当面白かったらしく、ラグナは一人静かな空の上で笑う。  背の矢傷も忘れてしまったのか、腹を抱えて目元には涙まで滲ませている。あまりにも豪快に笑うので、ラキエルは横目にラグナを睨む。だが、鋭い視線をものともせずに、ラグナはおかしそうに笑い続けた。     
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