第一章 -6- 罪と罰

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 広く、果てしない自由の空。それを制する翼は、思うように動かない。飛ぶ事は出来ても、自由に舞う事は出来なかった。空は広すぎて、その底のない深さが、まるで檻のようだと思った。広すぎるが故に、何処にもいけない。終わりの無い空に、己の存在の希薄さを知り、微かな恐怖を覚え、身動きが取れなかった。そこに絡み付いてきた、恩寵という名の楔。ラグナを空に縛る枷。  神の恩寵は、奇跡の力を与えてくれる。  しかし、栄華の裏には廃退が付きまとうもの。  恩寵の影には嫉妬と羨望が常にあり続けた。望んでも無い力を与えられ、それ故に敬遠される。時に嫉妬は暴力に結びつき、簡単に傷つけられる。  ――望んでもいないのに。  心の奥底に根付いた言葉を、ラグナは呟いた。  誰が悪いわけじゃない。  でも、神の恩寵は人にも天使にも余るものなのだ。誰も、それを御する者などいない。けれど与えられぬ者は、その事実に盲目だ。羨望は嫉妬へと変わるけれど、哀れみの感情には変わらない。哀れみの感情を持てるのは、同じように神の呪いを受けた者だけ。 「なぁ、ラキ。あんたとオレは違うようで、だけど立場は似たもんだよな?」  ラキエルは忌み嫌われるが故に一人だった。  ラグナは、月の女神に愛されたが故に、敬遠された。  それでもラグナはまだいい。少なくとも、サリエルだけはいつでも傍にいたのだろうから。  そして、ラキエルにはディエルがいた。本当に辛いときは、優しい老天使がいつも、ラキエルを見守ってくれていた。だから、神の恩寵を得た二人は、幸せな事に完全な孤独を知らない。  本当の孤独を知っているのは一人だけ。     
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