第一章 -6- 罪と罰

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 長い螺旋階段の終わり、この天界で最も高い位置にあるここは、限られた者のみが立ち入る事の出来る、聖堂だった。本来ならば、ディエルといえどもおいそれと立ち入る事の出来る場所ではない。しかし、この日ばかりは、呼び出しと言う名目で足を向けなければいけなかった。出来ることならば、門前払いを望んでいた。けれどしかと人払いのされたそこは、耳に痛いほどの静寂を満たし、ディエルの微かな希望を砕く。 「第二階級智天使ディエル、参じ仕りました」  床へ方膝をつき、深々と頭を垂れて、ディエルは低く名乗りを上げた。  その声に、聖堂の奥で祈りを捧げていた天使は首だけ動かし、振り返った。長い黄金の髪が、滝のようにゆるやかにうねり、さらさらと揺れるその隙間より覗く瞳でディエルの姿を捉える。口元に優しい笑みを浮かべて、天使は祈りを止め、身体ごとディエルに向き直った。 「突然呼び出してすまない」  高くも低くも無い中性的な声が、静まり返った聖堂に音の花を咲かせる。  ディエルはいいえ、と小さく答えた。  頭を上げようとしないディエルに、天使は肩を竦めて、ディエルに面を上げるよう促す。けれどディエルは首を横に振り、天使の方を見ようともしない。それは、恐れ多いという理由からではない。頑なに、敬う振りをしながら彼を拒んでいる。  嫌われたものだと、天使は心の内で笑った。 「フィーオ殿。貴方に、良き知らせと悪き知らせをお持ちしました」  感情の篭らない機械的な声で、ディエルは言う。  フィーオの表情が曇るのが、空気に混じった僅かな気配から分かった。けれど、ディエルは見ざるを決め込んで、言葉を繋げた。     
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