第一章 -6- 罪と罰

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「悪き知らせは……、また天より二人の脱走者が出ました。貴方もご存知の、ラグナエルと、もう一人は――」 「ラキエル、でしょう?」 「……知っておられましたか」 「当然です。逃げる事も予想していましたよ。だから、先に手を打ったというのに、ラグナエル一人の介入のためにそれが裏目に出てしまった」 「先に、とはどういう事ですか?」  引っかかるフィーオの言葉に、ディエルは訝しむ。  無礼と取れるディエルの態度にも動じず、フィーオは悠然とした態度を崩さずに答えた。 「気付かなかったか? 私がラキエルを捕らえ、牢へと連れたのだ」  ディエルは弾かれたようにフィーオを仰ぎ見た。  信じられないと、ディエルの瞳は物言わずに訴える。フィーオはようやく自分を見てくれた老天使に、優しく微笑みかけた。  美の神々に愛され生まれてきたと言われても素直に受け入れてしまうほど、フィーオは完璧なまでに整った容貌を持っている。けれどその反面、彼の中に住むのは凍てついた心。神聖すぎるが故の冷酷さ。それを知るディエルは、フィーオの微笑みに良い感情を持てないでいる。  見上げた先で、彼の微笑みはぞっとするほど神々しく、同時に恐ろしくもあった。 「……貴方が、そのような事をする必要などないはず」     
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