第一章 -6- 罪と罰

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「……二人を連れ戻すおつもりで?」  息苦しさを搾り、ようやく声を出す。  フィーオの表情を窺う気にはなれなかった。恐らく、極上の笑顔で、冷ややかにディエルを見つめているのだろうから。 「先に貴方の言う良き知らせを先に聞かせていただきましょうか」  あくまで優しく穏やかなフィーオの声が、ディエルの拒否権を奪い去る。本当は、この天使には何も報告などしたくは無い。けれどフィーオに逆らうだけの勇気は、ディエルにはもう無い。  フィーオは間違ってなどいない。いつも正しい判断をしてきた。過ちばかりを犯してしまったのは、ディエルの方だ。甘さゆえに、肝心なところで失態を晒す。情けをかけるばかりで、罪を裁く事のできない愚かな天使、それがディエルだ。  フィーオは誰よりも強く在り、誰よりも冷酷で、そして慈悲深い。  天界を纏め上げるだけの器量を持つ彼に、ディエルが意見する資格など無い。  だから、今日も同じ。彼に命じられるまま、己の責務を果たす。 「月の女神が、ラグナエルを解放しました。二人を繋ぐ楔は、もうありませぬ」 「……そうですか。サリエル様のご様子は?」 「落ち着いております」     
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