第一章 -6- 罪と罰

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 先ほどのサリエルとのやり取りを思い出し、微かな罪悪感が胸を過ぎる。けれどそれを面には出さずに、ディエルは淡々と言ってのけた。  サリエルが落ち着いているのは、ラグナエルのため。彼を解放するためだけに、あの少女は虚勢を張っている。その姿があまりにも憐れで、だけど慰めの言葉一つかけてやる事はできなかった。 「思ったよりも、脆い絆だったと言うわけですか。私はラグナエルがサリエル様を連れて逃げると思っていたのですが……。まあ、この結果は好都合ですね」 「女神はラグナエルを解放する代わりに、彼の咎を許されよ、と」 「それはお優しい」  くすりと忍び笑いの声が聞こえて、ディエルはきつく結んだ拳に力を込めた。 「サリエル様のお気持ちも分かる。けれど罪人は罪人。ラグナエルを許すわけにはいきません。勿論、ラキエルも」 「では、早々に追っ手を?」  聞かずとも、答えなど分かっている。  けれど一縷の望みを込めて、ディエルは虚しいと感じながら問う。  希望を抱けば抱いただけ、当たり前の結論により落ち込むだけ。それなのに、問わずにはいられない自分を、心の中で嘲笑う。しかし、ディエルの下り坂一方通行の思考は、以外にもフィーオの一言で止まる事となった。 「いいえ」  たった一言。     
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