第一章 -6- 罪と罰

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 肯定するとばかり思っていたディエルは、予想と違うフィーオの判断に戸惑い、続ける言葉を失う。 「追っ手を差し向けるのは簡単です。……しかし、何も今すぐにでなくとも良いとは思いませんか?」 「……何をお考えで?」 「ふふ、そう怪しまないで下さい。ただ、二人に一度だけ機会を与えようと思うのです」  フィーオは微笑を消し、ゆっくりと瞳を閉じた。  耳を澄ませて、声ならぬ声を、天界で唯一己だけが聞く事の出来る神の言葉を聞き届けようとするように。静かに、神の声を代弁するように。 「償いの余地を与えましょう。……神が本当に我らを見捨てておられないのならば、きっと救いの手を差し伸べてくださるでしょう?」  それが誰に向けられた言葉なのか、ディエルには分からなかった。  ラキエル? ラグナエル? ディエル? それとも――。  再び頭を上げ、ディエルはかつての教え子を見つめた。瞳を閉じて静かに微笑むフィーオは、やはり美しく、残酷なまでの慈愛に満ちていた。
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