第二章 -7- 流れ行く者

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 重すぎる責任と期待と嫉妬から、逃げたかっただけ。だけど一人きり、逃げた先でどうしようもない孤独感に襲われた。手を伸ばしても、それに触れる温もりは何処にもない。何故だか悲しくて、自由を手に入れたはずなのに満たされない。  心が乾いてひび割れる。  自由を知れば知るほど冷えていく何か。  ああ、自分は寂しかったのだと、自由を手に入れて初めて気付いた。  けれど寂しさを埋めるものを彼は知らない。  空虚な心を持ったまま、彼は流れていた。様々なものを見た。様々な人を見た。幸せそうに笑う者、絶望に嘆く者、力強く生きる者、世捨て人となり孤独に生きる者。たくさんの人を見た。皆同じようで、だけど深く見れば決して同じではなかった。  幸せな者は皆、同じく幸せそうに笑う誰かが傍にいた。友人だったり家族だったり、恋人だったり。家族も友もいない彼には、理解できない世界だった。彼は自分以外の人間と親しくなる人に疑問を持ち、同時にそれを目にするたびに、言い様のない不快感を感じた。何故、人と関わり幸せになるのか、理解できなかった。以前、彼を取り巻く他人は、彼にとって良き存在ではなかった。  彼は有能すぎた。歪み一つ無い、完璧なまでの知と力。神の寵愛すら欲しいままにした、美しい天使。自分でも自覚できるほどに、抜きん出た存在であった。それ故に受けることとなった嫉み、恨み、そして敬遠。それらの負の感情は、彼を傷つけるものでしかなかった。     
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