第二章 -7- 流れ行く者

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 だけどその時は、誰でもいいから温もりに触れたいと、そう思った。  彼女は戸惑いながら、だけど最後には彼の手を取った。  触れた彼女の白く小さな手は、寒さに震えて冷たかった。冷たかったはずなのに、暖かいと感じた。それは手の温度ではなくて、もっと違う何か。だけどそれは、彼には理解しがたいもので、結局今も解らない。  彼に解る事は、その手の心地よさ。自分ではない他人の手がとても暖かくて、空虚だった身体の裏側が、ほんのりと満たされているような気がした。  この手があれば、どこまでも行ける気がした。  互いの孤独を埋めあいながら、二人は歩き続ける。  何のしがらみの無い場所を探して。  流れ行く二人は、夜闇の影に消えていった。
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