第二章 -7- 流れ行く者

5/22
前へ
/314ページ
次へ
 目が覚めたのは、空が夕暮れ色に染まっている頃だった。  ――赤い赤い。  世界が炎に包まれている。何もかもが、鮮やかな真紅に飲み込まれる。全てを焼き付くし、悲しみ嘆く人の全身から溢れる涙が大地をより赤く染める。苛烈ながら美しい色彩に、青く清らかな大地は滅ぼされる。  それは不安定な未来。  いつか訪れる、世界が終わるその瞬間。  当然のように巡る毎日に終止符を打つのは、予言されし滅びの天使。全ての天使が知る、最悪の未来予想を、人は誰一人知らない。  時に安らかな、時に悪夢めいた夢をみながら、明日が来る事を信じて疑わない。  知らない事は幸せであり、悲しいほどに愚かだ。  そして知る者は、微かな希望に縋りながら、心の奥深くで絶望するのだ。  果たしてどちらが憐れなのだろうか。  そう、問うた人は一体誰だっただろう。  記憶の片隅に残る言葉をぼんやりと思い浮かべて、ラキエルは赤い空を仰いだ。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加