第二章 -7- 流れ行く者

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 ラキエルの倒れていた場所は風通しの良い草原だが、少し歩いた場所にはすらりと伸びた背の高い木々が乱立している。青々とした葉を細い枝の先までつけた樹木は、空を隠さぬ程度に枝を広げ、大地を優しく覆っていた。どうやらラキエルは小さな林にぽっかりと空いた草原にいたらしい。恐らくラグナも近くにいるだろう。  もしかしたら彼のことだから、ラキエルを驚かそうとして隠れているのかもしれない。少しの間だが、彼が愉快犯だという事は十分すぎるほど実証されている。落ちる途中で風に流されたとか、置いていかれたなどと悲観的な事を考えるより、ラグナの悪戯だと考える方が正しい気がした。むしろ悪戯である可能性の方が高い。  そこまで考え付くと、ラキエルは冷静さを取り戻した。  今ここで慌てふためいては、彼の思う壺ではないか。物陰から取り乱している自分を見て、にやにやと馬鹿な笑顔を浮かべ口元を押さえているかもしれない。もしもそうなら、一発殴らなければ気がすまない。  落ち着きを取り戻すと、ラキエルはもう一度辺りを見回した。  齢を重ねた樹木とラキエルの膝まで伸びた草の合間に、きらりとした色を見つける。それが金属類の反射光であると判断し、ラグナの身につけていた帽子に白銀の十字架が輝いていた事を思い出す。無言のまま近づくと、予想違わず探し人がいた。彼は生い茂った草に隠されているかのように横たわっていた。  固く、瞳を閉じたまま。     
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