第二章 -7- 流れ行く者

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 顔をあわせた途端皮肉の一つ二つを予想して構えていたラキエルは、ラグナの状態に驚く。彼は木の根の間に身体を埋めるようにして昏睡していた。時折大きく息を吸い込んでは吐き出し、寝苦しそうに眉を顰めている。 「ラグナ?」  驚かせないよう、音を立てずに彼の前にしゃがみ込む。  何度か軽く肩を叩いてみると、皺の寄っていた眉間がぴくりと反応する。  それでもなかなか目を覚まさないラグナに痺れを切らし、少し激しく肩を揺さぶってみた。するとラグナの吐息に苦しげな声が混じる。ラキエルは驚いて肩を離し、一歩後ずさる。逃げる途中で負った傷に障ってしまったのだろうか。軽はずみな行動を後悔しながら、ラキエルは恐る恐るもう一度ラグナの名を呼んだ。  返るのは沈黙のみ。  さすがに心配になり、ラキエルは自分なりに精一杯の優しい声で一言二言言葉を投げる。  それでも反応を示さないラグナに、どうして良いか分からず、そわそわと視線をめぐらせる。辺りは草原。人の気配は無い。助けなど、空から降ってくるわけでもない。  どうすれば良いだろう。  冷静になれと己を叱咤しながら、それでも良い案が思い浮かばず、もう一度ラグナを呼んだ。  やや血の気を失ったラグナの唇が、微かに歪んだ気がした。     
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