第二章 -7- 流れ行く者

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 意識を取り戻したのだろうかと、恐る恐る顔を寄せる。戸惑いを体現するかのように挙動不審気味に動く。その姿が滑稽だという事に気付かずに、ラキエルは心底困ったように眉根を寄せた。  そこでようやく、奇妙な静寂が途切れた。  吊り上った琥珀色の瞳が開いたと同時に。 「無理! あんた本当ばっか!」  突然大声を上げたかと思うと、ラグナはラキエルの顔を見ながら笑い出した。それはそれは、盛大なほどに。二人の近くの木に巣を構えていた小鳥達が、突然の大声に吃驚して、慌てて空へと飛び立った。 「何だよ、そのへっぴり腰!」  固く瞳を閉じて昏睡していたかのように見えたラグナは、ラキエルの一挙一動をしかと見ていたらしい。ラキエルの心配は杞憂に留まらず、最悪な事に裏目に出たようだ。  腹を抱えて笑いながら「きもい」だの「変な顔」だのを遠慮なく口走るラグナの様子を見て、ラキエルは拳を固めた。先ほどラグナの身を案じた自分が馬鹿みたいだ。緊張のため強張っていた身体から力が抜けていくのを感じながら、ラキエルは溜息を零した。  そして急に込み上げてきた恥ずかしさと怒りを、未だ笑い続けているラグナの頭部にぶち当てる。 「ってぇ」  乾いた音が冷えた空に響き、風の音にかき消される。  一瞬の静寂を挟んで、馬鹿笑いをしていたラグナが今度は抗議の声を上げた。 「何すんだよ」     
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